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12.04.13
ペンキ屋さんの思い出 by友人ライター
カテゴリ:
ペンキ屋さんの思い出
「今日から壁の塗り替えで、職人さんが来るから」
あと少しで夏休みというある日の朝、母に「学校から帰ってきたら麦茶のやかんに氷入れてあげて」と言われた。
職人さんって何だろう?とにかく、帰ってきたらやかんに氷を入れるんだなと寝起きの私は寝ぼけながら聞いていた。
そんな母の言葉をうっかり(すっかり)忘れて、思い切り遊んで帰宅。
「おっかえりー」
「おっ!帰ってきたなー」
と、おじさんの声がする。
うちは両親共働きだったので、「おかえり」と言ってくれる人はいない。
その声の主は、家の壁を塗っているペンキ屋のおじさんたちだった。
「おかえり」の言葉がうれしかった。遊びに夢中になって忘れていたことを後悔するほどに。
それから、毎日「おかえり」と言ってもらえるのがうれしくて、学校が終わったら小走りで帰った。
麦茶のやかんに氷を入れていると「ありがとねー」って言ってもらえるのもうれしかった。ペンキ屋さんのおじさんたちと話をしたくて、意味もなく庭をうろうろしたりしてみた。
一度だけ、自分のおこずかいでおじさんたちにジュースを買った。
炎天下の下、塩分を欲しているだろう身体に鞭打つように、ファンタオレンジ、ファンタグレープ、ドクターペッパーという、迷惑極まりない地獄のお子様チョイス。自分が飲みたいものを選ぶ。子供ですもの。容赦しません。
それでもペンキ屋さんのおじさんたちは、「ありがとう!美味しいよ!」と言って飲み干してくれた。
ごめんなさい。しかも今考えれば、「おじさん」ではなく、「おにいさん」でした。この場をかりてお詫び申し上げます。
そんなうれしい日々が続いたある日、学校から帰ると家の周りのシートが取られ、古ぼけた家がピッカピカに生まれ変わっていたのでした。
魔法にかけられた様に綺麗になった家を見ながら、「もうあのおじさんたち(重ね重ねすみません)には会えないのか・・・」とちょっと切なくなった夏の日の午後なのでした。